彼の就任と共に発せられた言葉
「選手は90分の内ボールを持っているのは2~3分だけだ。私は、その他の時間を見ている」
個人的には面白い、と感じた。

だが、いざ始まってみると選手を図ると言い戦術練習は皆無。
必然的にこのアジアカップで評価をせざるを得ない状況となった。
彼が、この大会の前に発言から気になった点を拾うと
「フォーメーションは4-3-3。攻撃時は3-4-3で、守備時は4-1-4-1である。」
またこのフォーメーション時は、親善試合のオーストラリア戦にて、アンカーの横のスペースを使われ対策に苦労した。
このスペースを使わる事への対策を聴かれた際には
「選手全員のハードワーク」
と答えている。
状況に応じての判断を求める、という事か、対策を口頭で答えたくなかったのか、はたまた、この時点では具体的な案は持ち合わせていなかったのか。
真相は謎ではあるが、いずれにせよ弱点であるとは認めている点は注目に値する。

また、練習後の記者団への質問には
「クロスの質をもっと求めたい。」
ともコメントしている。
この事から、クロスに関しては監督からの指示、少なくとも助言はあったとみていいだろう。

就任当初から繰り返し言っていた言葉は
「ハードワーク」
基本的に走らない選手には用は無いという事らしい。

以上の事から、彼が直接的に口出し、関与したと思われるのは、フォーメーションへの最低限の言及。
4-3-3と言いながらも、4-1-4-1と3-4-3の可変フォーメーションと口にした事から、これは間違いないだろう。
そして、クロス練習、これも記者団に答えている以上、多少なりとも実際に行ったものではあるだろう。より広く捉えれば、サイド攻撃全体に関与した可能性も考えられる。
本当にクロスだけをただ入れる、という事は当然無いだろう。
ハードワークについては選手選考に影響した、程度に捉えておく事にする。

その上で、この二つとそれに通ずる形での、試合への影響などを分析する。


まず、アンカーの横のスペースをどのような形で埋めていくのか、ここに注目していた。
しかし、実際に大会が始まってもグループリーグのチームはそもそも、ボールを保持でき、ゆっくりと攻め込める程の実力すらなかった。
この為に、この部分への具体的な回答は一切解らなかった。
そうして、いよいよとトーナメントに上がるも、結果はさほど変わらず。
そのまま準々決勝という比較的、早い段階で敗退してしまい、この部分は未知数、解らずじまいとなってしまった。

上記の想定される状況は、第一に相手チームにボールを持たれている事。
そして、第二に日本側がブロックを作っている時だ。
中盤のアンバランスな部分、個人能力に依存した形での守備に就いては、後々、順を追って触れる事にする。

次に、注目したのが監督自らが指示を出したであろう、クロス。
明確に解るものでは無く、広くはサイド攻撃への支持であろうと考え、見る事にしたが、これまた予測通りには行かないもので、本当に解り易くクロスを上げていた。
初戦の内に何度か見られ、恐らくこの練習の成果と呼べるであろう、それを起点にした得点が香川のシュートを岡崎が頭でコースを変えた得点だ。
サイドバックがサイドを駆け上がり、そのクロスに対し、前線の3枚が飛び込む。この事により相手のディフェンス陣のラインを押し下げ、空いたスペースに2列目の選手が飛び込む。
これは監督の言っていた
「攻撃の厚みが無い。賭ける人数が少ない。」
という言葉通り、以前より攻撃の枚数を増やすことに成功してる。
しかし、この試合、他のクロスの場面を見てみると、この得点シーンとは違う形での飛び込みが、最も多くみられていることに気付く。
得点の場面では、前線の3枚がそれぞれ、ペナルティエリアのラインに並ぶ形で立つところを大よそのスタート地点とし、そのまま真っ直ぐに走り込み、そのスペースのファーサイドに香川が詰める形で上がってきている。
だが、この試合で最も多い飛び込みの形は、クロスに対し前線の3枚が真っ直ぐに走り込む事は変わらず。インサイドハーフの香川の動きも変わらないが、逆側のインサイドハーフの遠藤も同じくエリア内に走り込んでいる事が解る。
この事により、ペナルティエリア内に実に5人もの人数をかける事に成功している。

…リスクは?
当然ある。
フォワードに位置する3枚これは当然中に居る。
クロスを上げているのはサイドバックだ。
2列目から飛び出し、クロスに対し飛び込むのは、両インサイドハーフ。
残されたのは、センタバック2枚とアンカー。逆のサイドバックだけ。
どう見ても、人数を賭け過ぎ後ろの枚数が足りていない。
事実として、この形からカウンターへ行かれそうに度々なっていた。
クロスを走り込んだフォワードの選手に入れた場合、それを先に相手に跳ね返されたらボールはペナルティエリアの外付近、所謂バイタルエリアに行く事が多い。
この場所は本来中盤の選手が見るべき場所。
その選手たちが”リスク”を冒しペナルティエリアの中に入っているのだから、当然その球は相手が先に拾う。
ここから、先にボールが殆どでなかったのは、個人能力の差がそれ程にあったから、としか言いようが無い。
加えて、理由を挙げるとしたならば、馬鹿正直に真ん中からカウンターを仕掛けようとしすぎた事も挙げられる。
素直に上がったサイドバックのスペースに起点を一度作り、後ろから選手が追い越す形を取り、カウンターを仕掛ければ少しは違う結果になっただろう。
また、これ程に解り易くボールの零れる位置が解るであろうはずにも拘わらず、その付近に居る選手がボールの出し所を探すようにボールを持ちすぎる場面もあった。

流石にこの戦術はやり過ぎたと反省したのか、2戦目以降は両インサイドハーフまで飛び込み、悪戯に中盤に穴をあける事は無かった。
また、アンカーの長谷部がこのボールの零れる位置を前の試合の経験から学んだのか、初戦よりも高い所に位置取り、このボールを拾えるようになった点も見逃がせない。
このアンカーの位置取りが上がる事に釣られる形であったのかも知れないが、インサイドハーフの遠藤もエリア内への飛び込みは控える様になり、結果として上記のやり過ぎた形からは幾分バランスの取れた形となった。


しかし、これでも尚、問題は残る。
このセカンドボールを拾うのがアンカーである事自体が、本来ならば好ましい事では無い。
当たり前の事だが、中盤の底、錨であり常にどっしりと構えているのが理想である。
その役目の人間が前に出てきているという事は、ここを外された場合後ろはもう最終ラインという保険のかかっていない状況となっている。

例えば、昨シーズンのバイエルンミュンヘンの最終ラインを思い浮かべて欲しい。
ハーフライン付近に2枚のセンターバックを残し、両サイドバックは高い位置を取っている。しかし、この際アンカーはセンターバック2枚の前を基本とし、セカンドボールを拾う、或はカウンターへのファーストディフェンダーはインサイドハーフまたは、ウイングの位置に相当する選手が多い。
やはり、アンカーを安易に前に出す事は、攻撃をモットーにするグアルディオラですら行ってはいない。
更にこの際、注目したいのが最終ラインの枚数。
センターバック2枚のみを基本にし、サイドバックは位置を高めにとっている。一見、こちらの方がリスクの高い様に思われるが、中に勝負の球を入れそのこぼれ球を拾われた時に最もリスクの高い、裏への一気のカウンターは出し手へとプレスをかけてのパスコースの限定とディレイが可能ならばそちらの方が往々にしてリスクは低く抑えられる。
その事から、出来る限りこの部分を増やしながらも攻撃の厚みを作る為に、サイドバックを広く、高く取る事によりインサイドハーフがより、内側でプレーしやすいような工夫が凝らされている。
勿論、この戦術はノイアーという非常に広いカバー能力を有するGKの存在は大きい。
しかし、これ程に極端な後ろの枚数を設定しなくとも、既に高いラインでのサッカーを行う為には、このカバー能力を程度の違いはあれ既に実践レベルで導入されている。

つまるところ、この例と比較した場合の彼の戦術での問題点は2つ。
1つは、ハーフコートでの試合を行っている時にも拘わらず、片方のサイドバックが最終ラインに入っている事により、中盤の枚数の不足。上記のクロス時の形と合わせ最終ラインと前線を繋ぐ選手が実にアンカー1人という攻守が分担された形を見せる事。
彼の言う所のハードワークの重要性だが、これではそれが重要になるのは当たり前というものだ。態々必要以上に中盤にスペースを作っており、ボールが奪われた時の距離感が遠い。自分たちから、必要以上に走る距離を増やしている。

2つには、最終ラインの裏の広大なスペースの守り方。
これに関しては、個人能力に比例する部分も多分にあり、余りこの名目で触れるべき事柄ではないかも知れないが、一貫した選手起用、対応から重要視していなかった事だけは伺えるので、触れる事にする。
要するに、GKの守備範囲だ。
通常、ハーフコートで試合を行う場合、取られたボールを上記の通り自由に扱わせない様な守備を行わなければならない。
しかし当然、ただのクリア気味に蹴りだされたボールや、裏のスペースに目がけて放り込まれるという事まで、防ぎきる事は難しい。それ故、このスペースはGKとDFの双方が合わせて埋めるというのが、このサッカーをやる上で欠かせない。
走り込む選手で、最もゴールに近いのは当然前線に残っていたFW。
そこに最低でも1人はセンターバックが見ている。今回の日本代表では2枚のセンターバックは大方中央に残っており、2枚の何れか近いほう、若しくは2枚で見る形を取っていた。
つまり、この選手たちが走り込むFWを止める訳だか、得てしてFWの方がスピードがある。そこで重要になってくるのが、並走しない事。先に相手の進路に体を入れてしまう事だ。尤も後ろからこの様な事は当然出来ない。先手を取る事が重要な為、予測能力などが求められるが、それ以上にこの行動を第一とする理由は、GKにボールは可能なら任せるという事にある。
進路を塞ぎに入った場合、DFのみで進路を塞ぎに行った場合と、GKが後ろから出てきている状態で進路を塞ぎに行った場合とで、審判が受ける印象が変わる。
前者なら入り方が少しでも遅れれば、確実に決定機の阻止と受け取られ、カードの対象。しかし、後者ならばGKの方がボールに近かったと判断されれば多少の行為には目を瞑られる。

この様にGKの位置が高ければ、DFの対応はボールと選手の双方では無く、片一方の手間で済む。これが可能ならば、カウンターへの対応としてどこまでもFWを追走し、自陣深くまで全員が一旦帰還せざるを得ない状況は回避でき、これまた必要のないハードワークを迫らせずに済んだように感じる。
尤も、この部分は数が少なく、選手の消耗の度合いがこの事で濃くなったとは言えないだろうが。


このクロスの際に生じるリスクと、それに準ずる形での守備時の問題点はある程度挙げた。
立ち返って、クロスに対しての飛び込みの人数を5人ないし4人とした効果の程を見てみる。
まず、FWの各選手の飛び込み方に注目すると、必ず縦へ走り込んでいることが解る。この3選手間での動きに連動性はあっても、それぞれが独立した動きをしており、そこに一対のものとしての動きは見られない。

例えば、コーナーキックを思い浮かべて貰えればいい。
だいたいが、それ程に意味があるのか、と思う程に位置取りで揉めている。
そして、大方が敵味方が密集する形か、誰も居ない空間を作っているはずだ。
この行動は相手のマークを外す為の動きであり、その狙いは人を被らせる事により、付く相手を捕まえ難く、見失いやすく、物理的に人の壁を作りフリーになる為の動きとなっている。
つまり、人と人とが重なる事、交差する事によりマークを外すのが一般的である。また、縦横のみの動きより、斜めの動き、死角に入る、死角から入る訳だ。

にも関わらず、この前線の3枚の入り方は縦に動くのみ。
当然、人と人が連動してはいても、連携はしていない。
必然的にこの走り込む、3人の選手は独力で相手に勝たなければいけない形を強いられている。散々に言われている通り、日本はこの様は独力での競り合いには強さを持たない。
要するにこの3枚はスペースを作る為の囮であり、本命は後ろから走り込む選手。…なのだが、2戦目以降の2列目からの飛び込みが1枚になった状態で、囮の動きに3人もの人を割く効果の程は疑問である。
この前線がクロスする形で動かない事は、この2列目の走り込みの為のスペース作りに起因し、クロスする形で片一方が膨らんで動いた場合、必然的にそのスペースを少なからず使用するからだろう。
しかし、第1戦での得点の形を思い出して貰っても解る通り、この形はゴール前に人が密集する。あの時は、岡崎の素晴らしいプレーに隠れていたが、この時も人が集まっているのが伺える。
今回の大会を総評し、ただの決定力不足と捉えても間違いではないが、シュートシーンでブロックに入られる事が多いのは、必然だ。

サイドバックを上げる為に、ウイングが絞る事は絶対条件に近い。
他の形としては、ウイングが目いっぱいに開き、内側を駆け上がる形。
問題は絞り方で、ニアに飛び込む形を目指す場合と、バイタルエリアに入り中のスペースを確保するやり方に分かれる。
この際に仮にニアに飛び込んだ場合、センターフォワードの選手は真ん中で貰う場合とファーで貰う場合に動きが分かれる。
しかし、逆のウイングが絞ってファーに飛び込んだ場合、センターフォワードの動きは真ん中で貰う以外の選択肢が潰える。
飛び込み方が完全に固定されてしまい、中の選手は守り易くなる。
そして、何よりも完全にゴール前のスペースが潰えている。
一見、後ろにスペースを作っているので、効率的に見えるが、こぼれ球を足元でコントロールする場合と、横からの浮いているクロスに対し直接的に合わせる場合では、精度の差は比較にならない。
また、ゴール前に人を余りにも引きつけている為に、シュートコースが限定され易い、難しいシュートを迫られている様にも見えた。
例えば、UAE戦、豊田がフリーでヘディングをした場面。これはクロスの位置がゴール近く、中に切り込んできた事により相手が引き出され、それに合わせ、豊田もボールから遠ざかる動きをした為に、人の間で受ける事に成功している。
この場面、DFが引き出された事により、ゴール前に見方が居る状況でスペースを作る事に成功している訳だ。
まあ、結果は知っての通り。
耐性が崩れていたにしても、決めて欲しいかったというのが本音。
兎にも角にも、クロスの成功例としては解り易く、その形も良かった場面。

総評としては、前線の人数を増やしたが故に、最も必要な場所のスペースを奪ってしまい、結果として態々難しい状況でシュートを打たざるを得なかった、という事は言えると感じた。


以上の事から、崩す攻めを構築できる監督では無い。
また、リスク管理の面から、攻撃と守備を”切り替え”とし、一体のものと考えていないのではないのかという事が推測される。
カウンターを中心にボールを奪われた時への対応が、個人能力頼み。
よって、戦術面に関しては、現状示されたものでは不足。
一方で、選手の自主性を求める、自由を与えるという点から、以前よりもポディションに拘らない流動性は生まれている。
また、試合中の選手交代には勝負事に対する、勝つ事への執着心のようなものは伺える。
戦術を管理する人間が居る前提で、選手のマネージメント、リーダーとしての決断力を生かす方向性での監督として能力を評価し、協会側の続投の判断であると仮定すれば納得はせずとも、その判断を呑む他ないと個人的には感じた。

協会側の判断が同じくして、戦術担当を据えるか、やはり素人である自分の分析程度では見当違いである事を願うばかりである。

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